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SFCスピリッツ
2011.12.01

大学院での学びと「人を残す事業」

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大学院での学びと「人を残す事業」

川田 英治さん
有限会社 アンビション代表取締役
2007年健康マネジメント研究科修士課程修了、2011年同博士課程修了

小生、2003年に有限会社アンビションという介護事業会社を設立しました。起業はしたのですが、福祉や介護事業は全くの素人で、専門用語や知識も全く理解出来ませんでした。そんな矢先、慶應義塾大学に医療・福祉の大学院が開設されると聞き、2005年に健康マネジメント研究科に入学することにいたしました。正直に言いまして、大学院で、こんなにたくさんの事を学べるとは思いませんでした。会社は茨城県水戸市にあり、通学は大変でした。しかし、学べる境遇に感謝しておりましたし、先生方の熱心さに背中を押してもらいました。卒業後も、諸先生方と三田会でお会いしますが、今なお良き師でいてくれています。

小生、経営者なので費用対効果については、よく考えます。その点からすると、慶應の授業料は安いというのが正直な実感です。大学院で学んだことが会社の指針となり、事業構築の礎となりました。小生くらい、授業料という費用に対し大きな効果を上げた学生はいないと自負したいくらいです。その中で事業に役立っている科目を、思い出を交えながらいくつか紹介したいと思います。

弊社には、「従業員倫理諸原則」という従業員の倫理規定があります。実はこの「倫理諸原則」は、梅津先生の「ヘルスケア経営倫理学」の授業をもとに作りました。授業の中で世界のトップ企業の倫理観を学んだ事が、弊社の倫理規範になっています。会田先生の「会計学」では、弊社の決算報告書の発表を行いました。まさか、大学院の授業が、弊社の決算報告会となるとは思いませんでした。発表に対し学生から出る質問も、株主総会のようで、まさにこれが「実学か」と思いました。商学部の権丈先生の「公共・財政学」では、多くの書物を読みました。しかし、当時に読んだ書物は、事業の中で確実に生かされています。また権丈先生には、修士論文の副査をしていただきました。今でも商学部の権丈ゼミからは、施設実習生を受け入れています。実際の現場を見て知って接触する事は、非常に大事なことで、今後とも「生きた卒業論文」のお役に立ちたいと考えています。先日も、大分県臼杵市で権丈先生とお会いしましたが、「妖怪人間ベム」の話しで盛り上がりました。学びを超えたお付き合いに感謝しております。総合政策学部の秋山先生とも、卒業後も親しくお付き合いをしていただいております。秋山先生の秋学期の「社会的組織の経営」では、弊社をケースとして取り上げてもらい、事例発表をさせていただいております。その発表の中で、多くの学生に、一番に関心を持って貰える事は、小生の事業理念です。それについて述べたいと思います。

その事業理念とは、「事業とは、お金ではなく、人を残す事」、「事業とは、お金ではなく、人を稼ぐ事」ということです。
介護事業は、感情労働や夜勤を伴う厳しい労働環境にあります。それにも拘らず、賃金は平均の賃金よりも約3割低いと言われています。介護職の離職率は年に20%を超え、社会問題にすらなっています。要介護者に「馴染みのケア」を実践してゆく事は非常に大事なことです。しかし、ベテランの介護職が辞めてしまい、それが実践出来ない現状があります。「人を残す事業」を行わなくては「馴染みのケア」は難しいと考えています。介護事業は典型的な労働集約型サービス産業です。機械やロボットがケアをするわけではありません。また、原料や資材が存在するわけでもありません。介護職に代わる物は何一つありません。介護職の質、すなわち「人の質」がケアの品質を決定します。事業の中心を「お金」から「人」へ移す必要があると考えます。介護職によい介護をしてもらえる環境や条件を整えることが小生の役割であり、それが経営のマネジメントであると考えています。それが、組織のマネジメントの根幹と考えています。

会社設立当初、資金繰りが大変で、行く先が非常に不安でした。しかし不思議なもので、「人を残す事業」という考え方で事業を進めてゆくと、事業はきちんと成立してゆきました。お金ではなく、人を事業の中心に置くことによって、事業が少しずつ好転してゆきました。これは、組織全体が「人を残す事業」を行うようになったからだと考えています。それに伴い財務諸表も、随分と良くなりました。顧問税理士の評価でも常にAもしくはBランク以上(10段階評価)を得るようになりました。1昨年、新規事業の土地の購入資金として、数千万円を銀行から借り入れしましたが、一発OKでした。この資金は、極めて低金利で調達しています。これも「人を残す事業」が成しうる技であると考えます。有限会社アンビションは、「お金」という利潤ではなく、「人」という利潤で回っているのです。

有限会社アンビションは、お金は残せないかもしれません。でも人は残せます。少なくとも、事業の意思を継いだ人は残せます。それが有限会社アンビションの残せる資産であり、財産であると考えています。健康マネジメント研究科で学んだ多くのことがこのような事業の礎になっているのです。

川田英治さん

有限会社アンビション ホームページ
http://homepage3.nifty.com/ambition-co/index.html



(掲載日:2011/12/01)