身体を病む人の心を癒す看護
―"リエゾン精神看護"という分野を開拓する―

慶應義塾大学看護医療学部教授
野末 聖香

私の専門は"リエゾン精神看護"です。心身相関の考え方を基盤に、身体を病む人の心のケアを実践・研究する分野です。日本における実践の歴史は20年に満たないですので、まだ新しい開拓中の分野です。学部では精神看護学領域の講義、演習、実習を担当しており、リエゾン精神看護に関しては、その考え方や実践の基本を紹介しています。また、プロジェクトで "看護における心の問題"をテーマとして調査・研究を指導しています。学生は、各自のテーマを持って集まります。これまで担当した学生が取り組んだテーマを挙げてみると、分離不安の強い入院幼児への看護、摂食障害患児の看護、化学療法患者への心のケア、助産師と妊婦のコミュニケーション、医療者による遺族ケア、看護師のコミュニケーションと仕事満足、新人看護師のストレス、代替医療に関する看護師の意識、看護師の自己表現、看護学生の自己理解、等々です。大変バラエティに富んでいますが、根っこはすべて患者と看護師の"心"です。これらのテーマは、学生各自が臨床での実務経験や実習体験を通して体感した疑問や課題から生じたものです。それだけに意気込みは並々ならないものがあります。基本的にはそれぞれで研究を進めますが、研究方法の学習や研究計画の発表などは、一堂に会して意見交換し、相互研鑽しています。
 また、大学院では、院生が精神看護学に関する理解を深め、実践と照らしながらそれぞれが課題を研究的に探求することを目指します。本研究科の精神看護学分野は、精神看護専門看護師コースとしての認定を受けており、上級実践トレーニングを行っています(写真は修士1年生と)。リエゾン精神看護はそのサブスペシャリティで、コースを出た修了生は精神看護専門看護師として活躍しています。

 看護は実践の科学です。どのような看護が人々に癒しをもたらすのか、病を抱えながら生活の質を高めるために看護に何ができるのかという課題は、実践を重ねながら研究的に追求していかなければなりません。看護実践の歴史は非常に古い。しかしその方法や効果を研究的に明らかにする作業に本格的に取り組み始めてせいぜい半世紀です。看護実践の中に隠されている宝物を掘り起こし、実証し、看護の知恵として体系化していく。それを実践に生かし、検証する。そういった円環的な仕事を粘り強く積み重ねていく人材が看護には必要です。学部生、大学院生が、常に研究的な視点を持ちながら看護を考え、実践するタフな実践家&研究者に育ってくれることと大いに期待しています。私としては、これからを担う人たちのために、強靭な"踏み台"になるべく日々奮闘しているところです。