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SFCスピリッツ
2009.05.08

場づくりと3足の草鞋

SFCスピリッツ

場づくりと3足の草鞋

鈴木和博さん
株式会社乃村工藝社 CC事業本部開発統括部開発部 プランナー
1994年総合政策学部

キャンパスカード市販の花火の炎を取り巻きながら、誰かが言った。『今この時間に"オギャー"と生まれた子供が、大学生としてSFCに来る日が来るんだよね。』1990年の七夕祭のことだった。
あれから、20年の時が経ち、私はこの春4月より、縁あってSFCに舞い戻り、非常勤講師として、まさにあの頃"オギャー"と産声をあげた学生達と今、毎週対峙している。今回、更なる縁があり、この『SFCスピリッツ』原稿を執筆するにあたり、「未来からの留学生」の端っこで、最近どのような活動をしているのかをお話させていただき、皆さんからのご笑覧をいただければと思う。

非常勤講師といいつつも、卒業以来勤続15年目の社会人でもある。あまり一般には知られていないと思うが、株式会社乃村工藝社という100年以上の歴史を有する企業の一員として、日々働いている(成績は別として)。これが一つ目の草鞋である。この会社、社会の黒子として事業支援を行っている企業組織で、具体的には、「人々が集う場に、驚きと感動、付加価値を創り出す」ということをミッションとしている。まだ、分かりにくい。一般的には「空間デザイン・内装施工」が主たる業務となっており、人気の商業施設や話題のイベント・テーマパーク、そして感動体験のミュージアムまで、ありとあらゆる集客空間をデザインし、創り上げることを仕事としている。年間6000とも7000といったプロジェクトに関わりながら、これまでの社会になかった新たな価値や魅力を生み出すこと=<場づくり>を最大の特徴=強み/面白みとしている企業である。
この中で、私はプランナーとして、入社以来モノゴトの調査・企画立案に関わってきた。世界で初めての博物館立ち上げから、地域活性化の基盤としてのテーマパーク創造事業、そしてSFCらしく(?)ネット新規事業の立ち上げ、などと、この100年を超える当社事業の枠組みに縛られることなく、<場>の創造に対してある意味自由に社会・生活者と向き合ってきたと思う。

そして、一昨年からは文化環境研究所というシンクタンクにて「特任研究員」という2足目の草鞋もはじまった。ここでは、文化環境=ミュージアムや非営利組織に対する調査・研究を行いつつ、日本ミュージアム・マネージメント学会などを通じた、文化環境が担うべき新たな社会機能・価値創造について発信している。中でも、ミュージアムにおける生産性向上やソーシャル・マーケティング概念の導入などは、こうした文化領域にとって、これまでになかった非常にホットな視点であり、最近も国立系の某ミュージアムの「非来館者調査」を実施したりと、新たな<場づくり>へのソーシャル・イノベーションの現場に直面しているところである。

そして3足目が冒頭のSFCでの非常勤講師である。肝心の講義名称(内容)は、『非営利組織の経営(ミュージアム)』という。ミュージアムを、新たに変化し、価値創出し続ける社会機能のひとつとして捉え、新たな価値創造に向けた仕組みづくりにつなげていくことを目標に、SFCの地で学生と一緒になって<場づくり>の試行実践を行っている。
現在の「未来からの留学生」である現役SFC学生と交わることを楽しみつつ、互いに刺激を共鳴し合えることを通じて、新たな価値創出をSFCから社会に発信できたら最高だと思う。

こうして草鞋も増えて、関わる人々・分野も増えているが、その核はSFCが誕生したあの1990年からはじまったのだと思う。仕事というものが、単なる金銭を得る手段ではなく、社会との関わりの密度を現すものとして、いかに"公に報いる"ことが出来るか?ソーシャル・イノベーターとして、新たな新結合を社会に、どのように還元していくのか?そして、そのために、いかに日頃から不確実な要素・領域に向き合い、「初めて」「誰もやったことない」コトに心躍る状態を維持し続けるのか?

草鞋の増加は、頭や体の増加を伴う必要があり、なかなか大変なコトではあるが、これからも、SFCで学んだ心持を大事にしつつ、多くの人々と共に<場づくり>を通じた<未来づくり>に関わっていけたらと願っている。端っこの方で構わないので。

乃村工藝社
http://www.nomurakougei.co.jp/

文化環境研究所
http://www.bunkanken.com/

(掲載日:2009/05/08)