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SFCスピリッツ
2010.10.15

生涯学び続けられる国フィンランドで考える未来の「学びのデザイン」

SFCスピリッツ

生涯学び続けられる国フィンランドで考える未来の「学びのデザイン」

大橋裕太郎さん:
ヘルシンキ大学メディア教育研究グループ所属ポスドク研究員
2004年環境情報学部卒業、2006年政策・メディア研究科修士課程修了、2008年同博士課程修了
大橋香奈さん:
フリーライター、プロジェクトアシスタント、学生
2004年総合政策学部卒業

- 夫・裕太郎さん -
SFC時代から現在まで一貫して取り組んできたテーマは、子どもの「遊び」と「学び」をデザインすることです。美術館、博物館、動物園、図書館のような「社会教育施設」や、地域のコミュニティを、子どもたちがより楽しく遊び、学べる場へと変える仕掛けを、検討してきました。

この活動の原点は、小学生のときの体験です。福島県の田舎で育った私が、遠出して生まれて初めて美術館に行った日のこと。そこでアンディ・ウォーホルの作品「マリリン・モンロー」と出会ったことが、すべての始まりでした。学校の美術の授業で「人の顔は肌色で塗るもの」と教えられた私にとって、顔が緑やオレンジやピンクに塗られたウォーホールの作品は、全く新しい世界でした。もっと自由な発想で絵を描いていいんだ、と心が開放されてワクワクしたことを、今でも鮮明に覚えています。学校の授業を受けていただけでは、美術を楽しむ心を失っていたかもしれません。子どもたちの可能性を伸ばすためには、多様な「学びの場」が必要だという思いが、現在の活動の原動力になっています。

博士課程在籍中は指導教官である有澤誠先生の教えである「理論をこねくり回すよりも、現場で使われるツールや仕掛けを作ること」を実践するべく、SFC、他大学の学生と協働して、動物園や水族館でのプロジェクトを実施しました。子どもたちが動物や自然環境について学び、音声ガイドや映像を制作することを支援。そのコンテンツを、ICT(情報通信技術)を活用して社会に発信していく仕掛けをつくりました。(2007年2008年グッドデザイン賞受賞、2008年キッズデザイン賞受賞、2007年文部科学省・インターネット活用教育実践コンクール実行委員会賞受賞)

そして現在、子どものための「学びのデザイン」の先進的な事例を求め、フィンランドのヘルシンキ大学メディア教育研究グループで、ポスドク研究員、講師として活動しています。「誰もが生涯学び続けられる知識社会」を目指すフィンランド。自由で柔軟な発想でつくられた多様な「学び」の仕掛けにたくさん出会い、刺激を受けています。この秋から、妻と一緒にフィンランドのユニークな学校との共同プロジェクトを立ち上げることが決まりました。フィンランド滞在で学んだことを、日本にSFCに還元していくことを目標に取り組んでいきたいと思っています。

裕太郎さんのブログ:http://utr-web.blogspot.com/


- 妻・香奈さん -
SFCを志したきっかけは、高校3年生の夏に参加したオープンキャンパスでした。イベントの中でグループワークを一緒にしたメンバーが皆個性的で、こんな仲間が集まる場所で学びたい、と心は決まりました。その期待に違わず、SFCでの先生や仲間との出会いは刺激と多様性に富んでいました。学生時代に最も注力したのは、渡辺靖先生のもとでの研究会活動。本やインターネットからの情報だけでなく、「現場」を歩き、自分の目で見て、そこにいる人々の声を紡ぎだすことの重要性を学びました。日本各地、世界各国の「現場」で格闘する仲間たちに刺激を受けながら、私自身は幼い頃生活したアルゼンチンでフィールドワークを重ね、経済危機下で発展した地域通貨活動を追いかけました。

卒業後サントリー(現サントリーホールディングス株式会社)に就職してからも、フィールドワークの精神は私の支えとなりました。配属された健康食品部門は、電話やインターネットでお客様に直接商品を販売する通信販売事業。メーカーでありながら、同時に小売業でもある。サントリー内では異色のビジネスモデルで急成長していました。電話やインターネットを通じ、お客様から直接思いを伺うことは、フィールドワークそのもの。お客様との対話から見えてくる思いがけない発見を軸に、サービスの改善やブランドマネージメント業務に励みました。

サントリーで5年半勤務した後、夫のフィンランド赴任を機に退職。昨年10月より、フィンランド生活が始まりました。フィンランドに来てからは、会社員時代と違って与えられた役割がないので、自分が動かなければ何も始まらない日々。気候の厳しさも重なって、当初は途方に暮れました。しかし、ここでも私を突き動かしたのはSFCで学んだフィールドワークの精神でした。2つのテーマで取材活動を始動しました。1つは、女性の社会進出で世界トップレベルを誇るフィンランドで、女性はどのように働き暮らしているのか。フィンランド女性へのインタビューリポートを、WEBダカーポで連載しています。もう1つは、「学力世界一」といわれるフィンランドにおける多様な「学びのデザイン」に着目しました。こちらは夫と協働して取材し、ジャパンデザインネットで連載しています。(連載情報はHPに掲載しています http://nanbeikeiyu.jimdo.com/works/

この秋からは、複数の大学で科目履修生として学生生活も始まりました。思い起こすのは恩師である渡辺靖先生の言葉。「世の中には大学で学びたくても学ぶことのできない人達が多くいます。その人達の分までしっかりと学んでください」この言葉を心に、日々学び、社会に還元することを目指します。

香奈さんのブログ:http://live-kanax.blogspot.com/


フィンランドの年越し
フィンランドの年越し

(掲載日:2010/10/15)